「我がごと」で考えているのは「社長だけ?」
「キャリアの自立」が人材育成のテーマとして以前から今も注目されています。その為の処方を提供する人材育成サービス企業や、コンサルタントが多く存在しています。 その一つが弊社でもあるのですが、弊社が考える 「キャリア自立」は「我がごとで考える(オーナーシップ)」です。
実は社員のそのオーナーシップを醸成を阻害している最大の要因は 階層型の管理統制組織だと思っています。 そんな組織で30年以上育ってきた私が言えることは 社内には実に多くの情報統制があるということであり、「階層型組織の維持生命線が情報格差の正当化」であるということです。 そして日本の会社組織のほとんどがその構造になっています。
皮肉な言い方になってしまい恐縮ですが、上層部の意図をあえて下部に小出しにすることで上位者はマウントをとるという構図です。「君たちよりも会社のことをわかっている」という優越感と裁量権の広さに無意識に固執してしまうわけです。 それでいながら 「理念が浸透しない」、「自立しない」、「指示待ちだ」と社員に一方的に責任を押し付けてはいないでしょうか? 問題解決の際、留意しなければいけないことは 安易に犯人捜しをして個別要素にその責を求めたり、当たり前になっている構造に疑問を向けないことだと思っています。 人間の脳研究の一つとして有名なメラビアンの法則(55:38:7の法則)では、人の印象は視覚や聴覚を優先して採用してしまいがちというように 表面的に見える事象に大きく反応しがちであることが言われていますし、実際、日常でも「炎上」しているのは自分に見えた限られたモノへの歪んだ反応だと思っています。 これまで順当に過ごせてきた昔からの当たり前を疑い、見えている「個」そのものではなく関係性(組織・階層・個人等)のような見えていないものを洞察して目を向けると 解決の糸口は見えてくると考えています。 真因の潜む個所に目を向けず、固定概念のまま押し切ろうとしていては、どんな努力もあまり効果は期待できないような気がしています。
「顧客第一」という経営理念を強く打ち出すドラッグストア。 22時閉店で、従業員が店の戸締りをしているときに駆け込む一人のお客様。22時を1分過ぎているし、決まりだし、自分が入店を許可するとレジや他の従業員にも迷惑がかかるし、このまま断って締めちゃおうかしら?店長に相談しようかしら… 自分も早く帰りたいし…。そして 本当に困っている表情のそのお客様に「すみません、もう閉店時間なのでごめんなさい」 1分間エンパワーメント(ダイヤモンド社)に書いてあった事例です。 その従業員が社長さん本人だったら、「はいはい、どうされましたか? 時刻は過ぎていますが大丈夫ですよ」と困っているお客様を前にした時の行動は暖かい対応に変わると思いませんか? 現場の従業員がオーナーシップをもって 一番大切な「顧客第一」を自分の判断で具現化するのです。
「私が、(いつも顧客第一を大切している)社長だったらどうするだろう?」と考え、社長がするであろうと思うことを現場のその場ですぐに具現化できる。これがオーナーシップです。そこまでになるにはおそらく従業員がそうできることがこの組織の「正しい思考・行動である」と信じられるような日常の積み重ねが必要でしょう。 しかし、残念なことに、本来称賛されるべきそうした行動に、「上司の確認を取っていないのはけしからん」「越権行為だ」「立場をわきまえていない」とばかりに叱られてしまっては、「あ~こういうことはしてはいけないのだな」とオーナーシップはいつまでたっても芽生えないばかりか、”指示待ち”を身を守る術として学習してしまうのではないでしょうか。
上司が判断を下すとき 多くの情報を総合します。 予算制限、締め切り、周囲への影響、この先の予定、会社として優先しようとしていること等などたくさんあります。 オーナーシップに不可欠なのが こうした業務にまつわる情報・知識が自分に揃っているかどうかです。判断に必要な情報がかけている場合、心配になるので誰かに相談しなければ判断できません。情報格差がオーナーシップ発動を妨げてしまうわけです。
階層型組織の対極に「フラット型組織」があります。 一時期そのようなことが注目され組織を改編した企業も増加したと聞きましたが、「情報格差解消」「皆対等で持ち場が違うだけ」ということまでは踏み込まず、 単純に管理職の数を減らしただけだった企業も少なくないのではないかと思っています。 そんな中で、1分間エンパワーメントを推奨されていた星野リゾートの星野代表の組織を見てみたいと思い、この夏に妻とある星野リゾート宿泊施設を体験して来ました。
オーナーシップしてました
「うちはフラットな組織にしているんですよ。」星野代表があるセミナーで云われていました。 それを最も実感できたのは初日の夕食会場でした。 どのスタッフさんも丁寧なのはどこの宿泊サービスでも変わらないのでしょうが、 私の経験したことのない +αの声がけを テーブルを担当してくれた女性スタッフが連射してきたのです。 自分の判断で即興で手紙を添えたり、サーブされる料理に気の利いた飾りを付けてくれたりしました。 その店のオーナーがVIPに対してやりそうな気遣いだなーと感じたわけです。 「これがオーナーシップか」 「きっとやりがいをもって仕事をしているのだろう」「エンゲージメント高そう」「リピーターも増えるだろうな」 いろいろポジティブ印象を持ちました。
あなたの会社の社員さんたちが、オーナーシップを持ってくれたらワクワクしませんか?でもそのためには「情報格差をどうなくすのか」「対等的な関係性をどう設計するのか」考えることが必要ですね。
関連リンク 「ダイヤモンドオンラインサイト」https://diamond.jp/articles/-/305698